商標の正体?

1.商標のなりたち(由来)

 商標とは、「営業者が自己の商品・サービスであることを示すために使用する標章(広辞苑第七版)」と説明されています。でも、この説明では分かりにくいと思う方もいらっしゃるかもしれません。

 そこで、商標について理解する前に、この商標の由来について少々触れたいと思います。なぜなら、商標の役割を知る上で、その歴史を知ることはとても重要だからです。

[世界発の商標は何だったのか?]

 世界的に見ると、商標が世に登場したのは今から二千年以上も前の、古代ローマ時代の頃と言われています。商品の流通が国内外に広がるにつれ、取引の際の出所を証明するものとして商標が使用されるようになったと伝えられています。[1]

 一方で、商標はブランドと呼ばれることもありますが、このブランド(BRAND)は、中世ヨーロッパ以前、北欧において、放牧されている牛につけた焼き印(古ノルド語で「BRANDR」。)に由来します。

 放牧されている牛などの家畜が、他人の家畜と紛れてしなわないよう、自らの所有物であることを示すために「焼き印」をつけたことがブランドの始まりと言われています。[2]

 ブランドと商標とは厳密には異なる概念なのですが、商標が自分の商品と他人の商品とを識別する役割を持つものであることに照らせば、根本的には同じものと捉えても良いというのが私の考えです。

 その後、時代が移り、線状の図形等で構成された「商人標」を経て、中世ヨーロッパの都市国家においてギルドの加入者を統制する手段として「生産標」なるものが使用されるようになります。この時代で既に、商標は商品の品質を保証し信用を得るための出所表示という役割を担っていました。

 そして、18世紀後半の産業革命を経て、1862年にイギリスで、虚偽表示を禁止する商品標法が制定され、その後、1875年に商標登録法が成立し、これが商標法の起源とされています。

[日本初の商標は?]

 それでは、日本で初めて登場した商標は、どんなものだったのでしょうか?

 日本では、大宝律令(西暦701年)によって、刀剣の生産者の名前を刀に刻印することが義務化されたことに端を発します。

 その後、鎌倉・室町時代には「座」という商人の同業組合が形成され、屋号のれん家紋などの形で発達してきました。

 中世ヨーロッパと重なる時代に、日本でもすでに商標が発祥していたことは感慨深いものがありますね。

 わが国における商標の登録制度は、1884年(明治17年)6月7日に制定された「商標条例」です。「商標条例」の制定には、第20代内閣総理大臣で、初代特許庁長官でもある、あの高橋是清翁が一役を買っています。

 そして、明治18年(1885年)、わが国初の登録商標(第1号)が誕生します。京都府の平井祐喜による膏薬丸薬の商標です。

2.商標の定義

 この「商標」について法律(商標法)ではどのように規定されているのでしょうか?

 いきなり、法律の話になり戸惑う方もいらっしゃるかもしれませんが、とても重要なことですので、しばし、お付き合いください。

 日本では、商標法第2条第1項に規定されていますので、以下に転記します。

[商標法第2条第1項]

 この法律で「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字図形記号立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であって、次に掲げるものをいう。

一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

 法律の文言で記述すると、どうしてこう無味乾燥になってしまうのでしょうか(笑)。でも安心してください。すべて日本語で書かれてありますので、義務教育をきちんと受けた方であれば、読みにくいかもしれませんが読んで理解していただくことができます。

 上記の商標法第2条第1項には、「商標とはこういうものですよ」と説明してあるだけです。つまり、商標とは、次に列挙する「標章」(マーク)であって、事業として商品を生産等する者が、その生産等された商品に使用するものなのです。

[標章の種類]

・文字 ・図形 ・記号 ・立体的形状 ・色彩 ・これらの結合 ・音

 上記を見てどう思われるでしょうか?一般には、文字や図形(イラスト)などが商標になり得ることは一般にも広く認識されているかもしれません。しかし、商標はそれらに留まらず、色彩から成る商標(色商標)や、音商標(いわゆる「サウンドロゴ」)なども商標の一種なのです。

 ここで、重要なのは一号及び二号に規定されている「業として」の部分です。

 つまり、事業者がその事業において使用する標章(マーク)でなければ「商標」とは言えないのです。

 例えば、今や世の中のスマートフォン界を席巻している「Apple」社の会社名の「Apple」は、「iPhone」の提供ブランドとして、リンゴのマークと共に著名ですが、この「Apple」の表記は、「Apple」社が「iPhone」を販売するときにパッケージに付される(使用される)から、商標と言えるのです。

 一方で、「iPhone」が欲しくてたまらない小学生の男の子が、厚紙を使って工作して「iPhone」の模型を作り、その出来上がった模型に「Apple」と表記して電話の真似事をしても、この場合は個人的な使用であって「業として」の使用ではないので「商標」ではないということになります。

3)「標章」との違い

 それでは、上記で少し登場した「標章」と「商標」との違いは何なのでしょうか?正直、読者の皆さんの中では「そんなこと考えたこともないよ~」とお嘆きの皆さんもいらっしゃるかもしれません。

 でも、ここで覚えてしまって、周りの知人や友達より一つ賢くなってしまいましょう(笑)

 皆さんの中には、言葉なんて伝わればいいや、なんて考えていらっしゃる方もおられるかもしれませんが、法律の世界では、使用する言葉を間違えただけで命取りになるリスクが孕んでいます。

 怖いですよね~、はい、では勉強しましょう。

 「標章」とは、はい簡単です。さきほど商標法第2条第1項に登場しました。

『人の知覚によって認識することができるもののうち、文字図形記号立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)』

 すなわち、「標章」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字図形記号立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合その他政令で定めるもの、ということができます。

 もっと言うなら、先ほど登場した一号及び二号に規定されている「業として」がありません。つまり、「標章」とは、事業として使用しない文字や図形等と、事業として使用する文字や図形等を包含する概念ということになります。

 ちなみに、辞書では『しるしとする徽章または記号。』と説明されています(広辞苑第7版)。


[1] 産業財産権標準テキスト総合編(第5版)「第3章 商標 1商標って何?」より一部引用。

[2] 一般社団法人ブランド・マネージャー認定協会「どうしてロゴが牛なのか?」より

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