探偵と弁理士
私が名刺交換等において、自己紹介するとき、
必ず「元探偵でした。」と相手に伝えるようにしています。
(このホームページでも、過去に探偵業に従事していたことを公表しています。)
なぜなら、おそらく弁理士の中で元探偵をしていたのは、私だけではないかと思うので、
それを聞いた方に少しでも興味をもってもらえるかなと考えたからです。
実際に、初めてお会いした方にその話をすると、決まって
「探偵って、いるんだね?」
「初めて会ったよ!」
「探偵って、どんなことするの?」
といった興味津々なコメントが返ってきます。
それはさておき、こう言うと、相手は、決まって
「でも探偵と弁理士とは結び付かないよね?」
となります。
確かに、普通に考えれば、探偵と弁理士とが結び付く要素はどこにも無いように見えます。
しかし、実は探偵と弁理士とが結び付く要素は意外(?)にもあるのです。
どういう要素かというと、
弁理士が、あることを調べてもらうために、探偵(調査会社)に依頼することがあるのです。
そのあることとは、商標の不使用の事実を調査するというものです。
これはウソではなく、本当です。
商標専門の弁理士の大御所の先生が話しておられたので、間違いありません。
また、弁理士会が発行する「パテント」誌内の広告欄にも、
「探偵会社による商標使用・特許関連調査」を謳う探偵社の広告が掲載されています。
私は、まだ担当させて頂いたことはないのですが、商標法においては、
不使用取消審判という制度が商標法の50条に規定されています。
(興味のあるかたは、ググってみてください。)
すべてを説明すると長くなってしまうので、簡単に説明します。
不使用取消審判というのは、
登録商標を持っている商標権者等(専用使用権者、通常使用権者)が、
その登録商標を、
「継続して3年以上日本国内で」、
使用していない商品やサービスがあるとき、
その使用していない商品やサービスに係る商標登録を取り消すことについて
特許庁に審判を請求することができる制度になります。
この審判は誰でも(何人も)請求できるのですが、
請求人は、商標権者が登録商標を指定商品等について使用していないことを
前もって調査しておかなければなりません。
実際の審判においては、使用していることについての立証責任は商標権者側にあるのですが、
審判を請求する側としては、商標権者等の反論に対抗すべく、
不使用の事実を主張するための確証が必要になるからです。
この不使用取消審判は、誰でも請求できるのですが、
大抵の場合、新規に商標を出願しようとする人が起こす場合が多いと思います。
過去のブログでも紹介しましたが、
商標の出願においては、先行登録商標と同一類似の商標を、
当該登録商標にかかる指定商品・役務と同一類似の商品・役務について出願をしても、
審査において拒絶されてしまいます。
一方で、先行登録商標と同一類似の商標であっても、
当該登録商標にかかる指定商品・役務と異なる商品・役務を指定して出願すれば、
原則として、少なくとも先行登録商標の存在を理由として、拒絶されることはないでしょう。
この場合、先行登録商標にかかる指定商品・役務の中で、当該登録商標の商標権者が
実際に使用していないと思われる商品・役務が存在していることがあります。
(なぜ、そのようなことが起こるのかについての説明は、長くなるので、ここでは控えます。)
このような場合に、新規に商標を出願しようとする人は、先行商標権者の持っている
商標権にかかる指定商品・役務うち、使用していない商品・役務の部分だけを
潰したいと思うのが普通です。
なぜなら、そこを潰せれば、自らの商標についての商標権の獲得に大きく前進できるからです。
しかしながら、面と向かって、商標権者に、
「その商品・役務、使っていないみたいだから、今度不使用取消審判を起こすね」
と馬鹿正直に言えば、商標権者はおそらく腹が立つと思います。
なにせ、喧嘩を売られるわけですから💦
最悪、腹は立たなくても、慌てて使用を開始するかもしれません。
(この点について、実は、不使用取消審判制度においては、
こういったいわゆる駆け込み使用を防ぐための措置もとられていますが、
やはり説明が長くなるので割愛します。)
よって、審判を請求する側としては、商標権者に悟られないように、
商標権者等が登録商標を指定商品・役務に使用していない事実(証拠)を
押さえておかなければなりません。
しかしながら、商標権者等が登録商標を指定商品・役務に使用していない事実を調べるのは、おそらく素人がやるには相当しんどい(お金も時間もかかる)と思います。
(私自身、探偵時代にこの件の依頼を受けたことがなく、推測でしかないので、
「思います」と結んでいます。)
なぜなら、冒頭に示したように、不使用取消審判においては、
「商標権者等が」
「日本国内において」
「継続して3年以上」
「登録商標を指定商品・指定役務について使用していない」
ことが要件になっていて、
これら一つ一つをつぶさに調べ、その真偽を確かめなければならないからです。
加えて、不使用取消審判の請求自体も、特許庁手数料に弁理士費用を合わせると結構高額になります。
なので、何らの確証もなく、不使用取消審判を請求するワケにはいかないでしょう。
弁理士が不使用取消審判を依頼された場合でも、
通常業務に加えて、弁理士自らが
不使用の事実を調査するのは非現実的だと思います。
そこで、調査のプロである探偵に依頼するのが、結果的に効率が良いということは
ご理解頂けるのではないかと思います。
以上、弁理士と探偵との関連性についてお話しさせて頂きました(^^♪